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レントゲンカンファレンス症例・解答と解説



第36回 日本画像医学会 (2017年2月)

No.112症例2:53歳 男性

診断:Implantation cyst
【画像所見】
CT
  • 直腸粘膜下に造影効果を伴わない低濃度腫瘤。
  • 腫瘤の周囲には吻合に使用されたステイプルを認める。
MRI
  • 腫瘤はT1WIで低信号、T2WIで著明な高信号を示す。
FDG-PET
  • 有意な集積を認めない。
【鑑別診断】
  • 吻合部再発
  • Implantation cyst
  • Colitis cystica profundaなど
直腸癌の手術から7年経過しており、腫瘍マーカーの上昇もないことから、吻合部再発よりもimplantation cystが疑われた。悪性腫瘍の除外目的でCTガイド下穿刺が行われ、粘液が採取され、細胞診は陰性であった。3か月後のCTで増大を認めたが、その後のフォローでは増大はみられなかった。

解説:Implantation cyst

1929年にDukesが直腸術後に粘膜下上皮に覆われた粘液貯留嚢胞の2例を”implantation cyst”として報告した。

本邦では自動吻合器を用いたdouble-stapling technique(DST)を行った直腸癌術後の症例が多く報告されている。吻合操作により腸粘膜上皮が折れ込んで粘膜下層以深に置換され、置換された上皮が粘液を産生することにより発生する。特に好発部位は直腸であり、吻合腸管に口径差があるためと考えられている。術後9-31ヵ月(平均17.1±6.9ヵ月)に発症し、発生頻度は2.0%(9/448)と報告されている。

CT、MRIでは吻合部近傍の嚢胞性病変として認められる。文献および自験例からはステイプルリングを嚢胞が圧排する像が特徴的と思われる。内視鏡では吻合部の粘膜下腫瘤の像を呈し、EUSでは第3層または第4層と連続する嚢胞として描出される。FDG-PETでは基本的に集積を認めない。臨床上は粘液癌の再発との鑑別が問題となる。

悪性の除外にはEUS-FNAによる細胞診が有用であったと報告されている。

治療方針には一定の見解はない。悪性腫瘍を除外できない、あるいは通過障害のある場合には外科的切除が考慮される。なお、穿刺吸引は根本的治療とならない。

【参考文献】
  1. Dukes CE. Specimens: Submucous Implantation Cysts of the Rectum.Proc Roy Soc Med 22:715-8.1929
  2. Honda, et al.Role of EUS and EUS-guided FNA in the diagnosis of rectal implantation cyst at an anastomosis site after a previous low anterior resection for a rectal cancer without evidence of cancer recurrence. GastrointestEndosc 68;782-785.2008
  3. Katsumata K, et al. A study of the incidence of implantation cyst at anastomotic sites after low anterior resection of the rectum with the double stapling technique. LangenbecksArch Surg 395:465-469.2010
  4. 古川敬芳、他.器械吻合器を用いた低位前方切除後に吻合部嚢胞を形成した直腸癌の1例. 日臨外医会誌 51:2020-2023.1990
  5. 星加奈子、他.S状結腸癌術後吻合部に発生したimplantation cystの1例.日臨外会誌. 63:1747-1750.2002
  6. 小泉範昭、他.直腸癌術後再発との鑑別が困難であったimplantation cystの1例. 日本消化器外科学会雑誌.44:1632-1638.2011
  7. 板場壮一、他.超音波内視鏡下穿刺術(EUS-FNA)が診断に有用であった直腸implantation cyst の1 例 日消誌 108:2030-2035.2011