レントゲンカンファレンス症例・解答と解説
第36回 日本画像医学会 (2017年2月)
No.116症例6:40代 男性
診断:HIV感染によって生じた進行性多巣性白質脳症およびART療法に伴った免疫再構築症候群
初回MRIでは左前頭葉から頭頂葉、側頭葉白質および脳梁にFLAIR像での広汎な高信号域が認められた。右小脳半球にもわずかだが同様の所見が認められた。病変部に増強効果は指摘できず、mass effectには乏しい。拡散強調像で病変の大部分でADCは上昇しているが、辺縁部では低下している部分があった。また、両側耳下腺に嚢胞状の腫瘤が認められた。頭蓋内の画像所見からは進行性多巣性白質脳症(PML)が第一に考えられた。PMLの原因としてはHIV感染の頻度が高く、耳下腺の嚢胞性腫瘤も非特異的だが、HIV感染に伴ったリンパ上皮性嚢胞と考えると一元的に説明可能と考えた。臨床的にもHIV陽性が確認され、また後日、脳脊髄液からPCRでJCウイルスDNAが検出されたため、PMLと診断された。PMLが疑われた時点でART療法が開始されたが、MMSE検査1点と認知機能の著明な低下を認めたため、頭部MRIを再撮影したところ、病変の拡大がみられ、増強効果が出現した。これらの経過、画像所見より免疫再構築症候群(Immune reconstitution inflammatory syndrome: IRIS)と診断された。
- 【進行性多巣性白質脳症(PML)】
PMLは潜伏感染しているJCウイルスが、免疫力が低下した状況で再活性化して脳内に多発性の脱髄病変をきたす疾患である。JCウイルスの初感染は幼・小児期に起こり、成人の抗体保有率は全人口の33~90%程度とされている。PMLの発症頻度は基礎疾患によって異なり、HIV感染者では1〜3/1000人、ナタリズマブ治療の多発性硬化症患者全体では2.36/1000人程度とされる。本邦でのPMLの基礎疾患としては、HIV感染症や血液系悪性腫瘍が多く、膠原病などが続く。膠原病の中ではSLEが多い。欧米ではPMLの基礎疾患の多くをHIV感染症が占めるが(約85%)、本邦ではその基礎疾患は比較的多岐にわたる。また近年、生物由来製品の副作用としてのPML発生が知られている(monoclonal antibody associated-PML)。特にナタリズマブは多発性硬化症における再発予防として使用されるが、PML発症との関連が他の生物由来製品より明確にされてきており特に注目されている。 PMLの臨床症状は多彩であるが、頻度の高い初発症状は片麻痺・四肢麻痺・認知機能障害・失語・視覚異常などである。その後、初発症状の増悪とともに四肢麻痺・構音障害・嚥下障害・不随意運動・脳神経麻痺・失語などが加わり、失外套状態に至る。
画像所見は大脳白質(特に皮質下白質)にT2強調像、FLAIR像で高信号を呈し、時に皮質や深部灰白質に病変が及ぶこともある。病変は非対称性で脳室周囲白質は保たれる傾向がある。拡散強調像では辺縁部に拡散制限を呈し、活動性の脱髄巣を反映していると考えられている。PMLでは通常病理学的に炎症性変化はみられず、増強効果やmass effectには乏しい。最近の報告でSWIにて病変部のU-fiberに低信号を呈することが特徴的な所見であるという報告もあるが、その後この所見はPMLに特異的なものではないと報告されている。後頭蓋窩にも病変が認められることがあり、小脳半球から中小脳脚にかけて三日月状の病変を呈することが特徴的である。PMLに対するMRI検査の感度は高く、MRIでPMLを示唆する所見がなければPMLを否定する強い根拠となる。ナタリズマブによって発症したPMLは若干画像所見が異なり、43%の症例で病変部に増強効果を示したとされる。このため、多発性硬化症の新病変との鑑別が時に問題となる。PMLは皮質下U-fiberを侵し、灰白質との境界は明瞭で白質との境界は不明瞭な傾向がある。また、病変が大きい割にmass effectに乏しい。一方、多発性硬化症の病変は小さく、脳室周囲白質に好発し、軽度のmass effectと増強効果を示す。
治療はJCウイルスに対する特異的な治療はなく、PMLの治療は低下している免疫能を正常化することを目指すことが主体となる。HIV-PMLではARTに療法、非HIV-PMLでは原因になり得る薬剤の中止や血漿交換が行われる。
ART療法後、HIV感染に伴い機能不全に陥っていた単球、マクロファージやNK細胞などの機能が回復したり、CD4細胞数が増加したりすることによって患者の免疫能が再構築された結果、体内の病原体に対する過剰な免疫応答が誘導されて炎症反応が生じることがあり、免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome: IRIS)と呼ばれる。IRISは近年ではステロイドや免疫抑制剤の減量、中止後にみられる同様の病態も含んでいる。臨床経過、画像所見ともに増悪するが、新たな炎症が生じることを反映してPML病変の増大や浮腫およびmass effectの増強、異常増強効果の出現が認められる。ART療法開始時にCD4陽性細胞数が50/uL未満、HIV-RNA量が10万コピー/mL以上の症例はIRISのハイリスクとなる。
IRISの治療は感染症の増悪の場合は抗微生物薬の投与が検討され、また過剰な炎症を抑制するためにステロイドやNSAIDsの投与が行われる。
PMLは予後不良な疾患であり、HIV感染患者に生じたPMLの1年生存率は58%、非HIV患者に生じたPMLでは3ヶ月以内とされる。また、多発性硬化症患者におけるナタリズマブに関連したPMLの死亡率は23%となっている。
- 【参考文献】
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- Natalizumab-Related Progressive Multifocal Leukoencephalopathy-Immune Reconstitution Inflammatory Syndrome: A Case Report Highlighting Clinical and MRI Features.
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- Low-signal-intensity rim on susceptibility-weighted imaging is not a specific finding to progressive multifocal leukoencephalopathy. Umino M, Maeda M, Ii Y, Tomimoto H, Sakuma H. J Neurol Sci. 2016 15;362:155-9.