レントゲンカンファレンス症例・解答と解説
第37回 日本画像医学会 (2018年2月)
No.128症例8:5歳6ヶ月 女児
- 【画像所見】
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腹部単純X線写真
- 仰臥位,立位とも,腸管ガスの形状や分布,実質臓器影に異常なく,遊離ガスや腹水を認めない.立位では左半身の緊張を和らげるように躯幹が左に傾いており,痛みの原因が左に存在することが伺える.
- 右第9肋骨の側方には化骨を伴う変形と硬化像を認める.第8肋骨にも淡い硬化像が疑われる.
造影CT
- 十二指腸水平部から近位空腸の壁が肥厚し,十二指腸空腸移行部には壁の造影効果が限局性に低下した領域を認める.
- 後腹膜や前腹壁下に大小の結節状ガスが散在している.
- 前傍腎腔の吸収値は上昇して液状を呈し,腹水も認められる.
- 【臨床経過】
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- 十二指腸水平部あるいは近位空腸の穿孔が疑われ,緊急開腹手術となった.
- 術中,トライツ靭帯近傍の空腸離断,靭帯から75cm肛門側の腸間膜血腫と腸管漿膜面の損傷が認められた.
- 十二指腸空腸端々吻合と小腸漿膜の縫合が行われた.
- 児の口唇や前胸部には火傷痕,顔面や躯幹に打撲痕と思われる紫斑が認められた.
診断:身体的虐待による空腸損傷
- 【考察】
- 肋骨の化骨や腸管外ガスに気がつけば,陳旧性骨折や空腸穿孔(離断)を画像診断することは難しくない.大切なことは,受傷時期の異なる二つの損傷が就学前の幼児に認められ,いずれの原因もはっきりしない点である.
通常の診療が医師と患者の信頼関係に立脚しているのに対し,虐待のそれは医師が患者の代弁者であるべき保護者の言動に疑念を抱かなければ始まらない.では何をもって相手を疑うか,それこそが虐待の診療にとって最も難しい問題である.物言えぬ児に代わり,医学的立場からその存在を示し,児の安全を確保することが,医療者に課される最大の責務である.
腹部臓器損傷は身体的虐待全体の0.5~11%を占めるにすぎないが,死亡率は9~53%と高い1).これは受診の遅れによる重症化の影響が大きく,発症から受診までの時間のずれは虐待を疑う理由となる.多くの事例では嘔吐や腹痛など内科的徴候を訴えて受診し,約4分の1の症例では挫傷などの外表異常を欠くため2),画像の果たす役割は大きい.
傷害される臓器は,偶発的外傷と同じく肝臓や膵臓,脾臓などの実質臓器と,腸管を中心とする管腔臓器が多い2)3).管腔臓器では十二指腸や近位空腸に穿孔や離断を好発し,同部の壁在血腫やそれに伴う通過障害をきたす例もある.腸間膜損傷の頻度も高い.実質臓器には挫傷や裂傷,被膜下血腫を生じる.損傷はしばしば複数個所に及ぶため,腹部から骨盤部を包括的に評価できる造影CTが第一選択の画像検査となる4).また内臓損傷には,骨や頭部の病変を合併する頻度が高く,skeletal surveyや頭部CT・MRIの実施を考慮すべきである4).
虐待を疑った時点で児童相談所に通告することは医師の義務である.誤った判断を恐れるあまり無垢の命を危険に晒すことは避けなければならない.
- 【参考文献】
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- Trokel M et al: Blunt abdominal injury in the young pediatric patient: child abuse and patient outcomes. Child Maltreat. 9: 111-117, 2004
- Sheybani EF et al: Pediatric nonaccidental abdominal trauma: What the radiologist should know. RadioGraphics. 34: 139-153, 2014
- Maguire SA et al.: A systemic review of abusive visceral injuries in childhood− their range and recognition. Child Abuse Negl. 37: 430-445, 2013
- Wootton-Gorges SL et al: ACR Appropriateness Criteria® Suspected Physical Abuse-Child. J Am Coll Radiol. 14: S338-S349, 2017