レントゲンカンファレンス症例・解答と解説
第23回 日本画像医学会 (2004年2月)
No.25症例3:48歳、男性
診断:神経ベーチェット病
Neuro-Behçet's disease
- 【画像所見】
- T2強調画像・FLAIR像で高信号を呈する病変が左側の橋~中脳~内包後脚にかけ広がっている.浮腫性変化を伴っており,脳幹は腫大している.T1強調画像では軽度低信号で,中脳・間脳移行部付近に増強効果が見られる.冠状断像で病変の上下の進展が明らかである.
- 【解説】
- 本例は約10年前よりベーチェット病で経過観察されていた.理学所見としては,口腔内にアフタが数個あり,四肢末端部に発赤を伴う小水疱を数個認めた.また入院時の検査所見では白血球12200,CRP(+1)の他には異常値を認めなかった.
ベーチェット病は再発性のロ腔粘膜の有痛性アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,網膜ぶどう膜炎などの眼症状を3主要症状とする難治性全身疾患である.特異的な症状,検査所見はなく,臨床症状の組み合わせにより診断がなされる.ベーチェット病の5~20%に神経症状の合併が見られ,神経ベーチェット病と言われる.多彩な神経症状と精神症状を呈す.髄液検査では細胞数の増加,タンパク増加が見られ,細胞数は活動性と相関すると言われる.
MRIでは病変部はT2強調画像で高信号を呈し,ときに出血を認め,急性期には増強効果を伴う場合がある.病変は非対称な場合が多い.神経ベーチェット病の病変分布は大脳から脊髄にいたるほとんどすべての中枢神経領域にわたるが,好発部位は脳幹部,視床,基底核である.特に中脳・間脳移行部が最好発部で,約半数に見られる.本例では,中脳・間脳移行部を中心として浮腫を伴う病変があり,上下方向に広がるなど典型的な所見であり,たとえ読影時に病歴,理学所見が不明であっても神経ベーチェット病の可能性を挙げることができる.
病理組織は小静脈ないし毛細血管レベルの血管周囲性の炎症細胞浸潤,血管周囲組織の限局性壊死性小病巣である.静脈炎が主体である本症が脳幹部に好発する原因として,静脈系吻合がテント上と比べ発達していないことが考えられている.白質病変を認める場合は脳幹病変を伴う場合が多い.静脈血栓症もきたしうる.
多発性硬化症との鑑別は臨床上重要である.本症では,多発性硬化症に比べ脳室周囲病変(ovoid lesion)が稀で,好発部位が脳幹部,視床,基底核であることなどが鑑別点となる.