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レントゲンカンファレンス症例・解答と解説



第25回 日本画像医学会 (2006年2月)

No.43症例3:妊娠(31週) G2P0

診断:Beckwith-Wiedeman Syndrome

【画像所見】
Single-shot fast spin-echo (HASTE) sequenceによる胎児MR画像では,まず目につくのは胎盤の著明な腫大である.胎児においては,両側の腎臓が著明に腫大し,信号の上昇が認められる.胎児の超音波では肝臓の腫大も疑われたが,MRにおいて定量的な評価は困難である.
【鑑別診断】
胎盤の著明な腫大の原因としては,母体の原因としては,糖尿病,慢性的な子宮内感染,貧血が挙げられる.一方,胎児側の原因としては,溶血性貧血,臍静脈の閉塞,胎盤の血管腫,胎児における動静脈奇形等が挙げられるが,稀な病態として,胎児からinsulinが過剰にされる病態(nesidioblastosis, Beckwith-Wiedeman症候群)も胎盤の腫大を惹き起こす.一方,先天的な両側対称性のnephromegalyの原因としては,NephroblastomatosisとBeckwith-Wiedemann症候群が挙げられ,本症例の診断としては後者が最も考えられる.その他の不随所見として,非常に長い臍帯,また羊水過多が認められる.
【経過】
帝王切開にて出生した胎児は,過成長に加えて,著明な巨舌(参考図1),臍帯ヘルニアおよび両側腎臓の著明な腫大による腹部の著明な膨満が認められ(参考図2),Beckwith-Wiedemann症候群と診断された.
  • 図1
  • 図2
【解説】
Beckwith-Wiedemann症候群は,常染色体優性形式をとる遺伝性疾患であり,11番染色体の短腕の遺伝子異常が原因であることが同定されている(1-4).85%の症例が特発性であるとされ,家族歴の欠如は診断を否定する根拠にはならない.特徴的な三徴は,本症例においても認められたよぅにExomphalos(臍帯ヘルニア),Macroglossia(巨舌),Gigantism(過成長,巨人症)であり,これらの頭文字をとってEMG syndromeとも呼ばれる.およそ14万人に一人の頻度とされるが,不全型も少なくないとされ,最近では,片側の四肢の過成長(hemihypertrophy syndrome)も,この症候群の不全型であるとも考えられていることより,その頻度はより高いものである可能性がある(3).胎児の膵臓のラ氏島の過形成により,出生時に著明な低血糖(新生児低血糖)を来す頻度が高く,出生前にこの疾患を疑うことは臨床的な意義が大きい.本症例において認められたように,軽度の羊水過多,長い臍帯を認める頻度が高い.その他の異常としては,副腎皮質の過形成,耳介奇形,口蓋裂があり,心奇形の頻度も高いとされる(4).
この症候群は,様々な悪性腫瘍を合併する頻度が高いことでも知られ,Wilms腫瘍,副腎皮質癌の合併はよく知られるが,その他には肝芽腫,膵芽種といった腫瘍の発生もありうる(3,4).したがって,典型的な三徴が認められない症例においても,他の異常,奇形を参考にして,診断が疑われる症例には,悪性腫瘍の発生に注意しながら経過観察する必要がある.
【参考文献】
  1. Beckwith JB. Extreme cytomegaly of the adrenal fetal cortex, omphalocele, hyperplasia of kidneys and pancreas, and Leydig-cell hyperplasia: Another syndrome? Abstract, Western Society for Pediatric Research, Los Angeles, November 11, 1963.
  2. Wiedemann H-R. Complexe malformatif familial avec hernie ombilicale et macroglossie, un syndrome nouveau. J Genet Hum 1964; 13: 223-232.
  3. Wiedemann H-R. Tumours and hemihypertrophy associated with Beckwith-Wiedemann syndrome. Eur J Pediatr 1983; 141: 129.
  4. Weksberg R, Shuman C, Smith AC. Beckwith-Wiedemann syndrome. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2005; 137: 12-23.