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レントゲンカンファレンス症例・解答と解説



第28回 日本画像医学会 (2009年2月)

No.59症例1:50歳代、男性

診断:硬膜動静脈瘻と静脈性梗塞(dural AVF and venous infarction)

【所見】
右側頭葉外側部~弁蓋部を主座として、右前頭葉弁蓋部、右島、右内包後脚にかけて、T2 強調像, FLAIRにて強い高信号、T1強調像にて低信号を示す領域が広がっている.動脈の支配領域には合致しない.T2*強調像ではこの病変の皮質に沿った低信号が認められる.拡散強調像はやや低信号で、ADC mapは拡散の上昇を示している.病変部位の脳溝の狭小化、右側脳室の軽度狭小化、透明中隔の軽度左方偏位など、mass effectを呈しており、おそらく浮腫を伴っていると思われる.
T2 強調像ではまた、右頭頂葉に重なって蛇行したflow voidが複数認められる.造影後のT1強調像では右側頭葉の一部の皮質に一致した造影増強効果のほか、脈管を思わせる蛇行した管状の濃染される構造物が右側頭葉から頭頂葉、後頭葉にかけて広範囲に描出される.右側頭葉外側部ないし後頭葉外側部の脳表近くには結節状に濃染領域も認められる.
MRA(3D-TOF法)のMIP画像にて右中硬膜動脈が左中硬膜動脈より強く描出される.MRAの原画像では右後頭動脈の拡張も認められる.また,右横静脈洞からS状静脈洞の移行部に高信号域が認められる.
【解説】
他院に紹介され、その施設でMR-DSA、血管造影が行われた.静脈瘤とその静脈瘤へ流入する右中硬膜動脈や右後頭動脈の分枝、静脈瘤から連続する右頭頂葉周囲の拡張した皮質静脈が描出され、硬膜動静脈瘻の存在が明らかになった.MRIにて右大脳半球に広範囲に認められた信号変化は硬膜動静瘻に伴う静脈梗塞と考えられる.MRAの原画像にて右横静脈洞からS状静脈洞にかけて認められた高信号域は静脈洞内の血栓を反映していた可能性がある.
硬膜動静瘻は硬膜動脈を流入動脈とする動静脈瘻で、脊柱管内を含め、硬膜の存在するあらゆる部位に発生する.海外の文献では横・S状静脈洞部に発生するものが最も多く半数を占めるといわれているが、わが国においては海綿静脈洞部が最も多く、次に横・S状静脈洞であるといわれている.好発年齢は50歳代以上の中年層から老年層である.海綿静脈洞部では女性に多く、前頭蓋底部、頭蓋頚椎移行部、脊髄では男性に多く、横・S状静洞部、上矢状静脈洞部では性差が認められない.
以前には先天性か後天性かの議論があったが、現在では小児の一部を除き、後天性の疾患であるという認識が一般的だが、硬膜動静瘻の成因にはいまだ不明な点が多い.外傷や静脈洞血栓症、静脈性高血圧、外科手術との関連が示唆されている.実際に多くの症例で静脈洞血栓症を伴っているが、静脈洞血栓症を伴わない例や、逆に静脈洞血栓症の症例には硬膜動静瘻を伴わない例も多く、硬膜動静脈瘻と静脈洞血栓症の詳細な関係はわかっていない.最近では硬膜動静脈瘻の成因や進展に血管新生因子、特にvascular endothelial growth factor(VEGF)やbasic fibroblast growth factor(bGFG)の関与が言われている.
症状は無症候性のものから致死的なものまで様々であるが、逆行性脳静脈還流(RLVD: retrograde leptomeningeal venous drainage)の存在の有無が症状の出現に大きく関与しているといわれている.
順行性の血流のみか逆流があっても静脈洞内に限局している場合はT2強調像で異常所見を捉えられないことが多い.皮質静脈への逆流が生じると、flow voidとして拡張した静脈を指摘できる場合がある.静脈うっ滞によって細胞外浮腫や静脈性梗塞が生じると、T2強調像で高信号でADC値が上昇した病変が認められる.皮質下出血を合併する場合もある.MRAでは3D-TOF法で、拡張した硬膜静脈枝や静脈洞内の異常信号が指摘できる.後者を指摘するのには原画像の観察が重要となる.また、もし可能な装置であればMR-DSAを撮像すると、おおまかな血行動態を知ることもできる.最終的には血管造影で6 vessel studyを行う必要がある.
硬膜動静瘻の治療の第一選択は血管内治療(IVR)であるが、その他の治療法として、頚動静脈や後頭動脈の用手圧迫、外科的治療、放射線治療がある.自然治癒するものもある.