レントゲンカンファレンス症例・解答と解説
第29回 日本画像医学会 (2010年2月)
No.65症例1:30代男性
診断:喉頭結核
提示した症例は、初診時内視鏡検査にて声門上構造の浮腫状変化が認められ、一部に潰瘍も認められた。腫瘍性疾患の疑いもあり生検が施行された。その結果、粘膜下にリンパ球や形質細胞が主体の強い炎症細胞浸潤と一部に類上皮細胞肉芽形成が認められ、類上皮細胞の抗酸菌染色で抗酸菌の菌体が確認された。また、肺結核も認められ、喀痰からガフキー10号が検出された。
- 【所見】
- 喉頭蓋から披裂喉頭蓋ヒダ、披裂、仮声帯、右咽頭喉頭蓋ヒダにびまん性、両側性の粘膜下浮腫状の腫大がある。両側披裂や仮声帯の粘膜面に結節状造影効果がある。下咽頭の両側梨状窩粘膜にも軽度肥厚がある。前喉頭蓋間隙や傍声帯間隙に異常はない。喉頭軟骨の硬化性変化や破壊はない。
両側上・中内深頸に腫大リンパ節があり、その内部は均一で中等度の造影効果がある。
- 【解説】
- 頭頸部領域の結核はリンパ節に最も多く、肺以外の結核の約15%、頭頸部領域の結核の約90%を占める。その他の頭頸部領域の結核として喉頭は約7%とリンパ節に次いで多く、側頭骨に約3%、副鼻腔や眼窩・咽頭に1%程度の頻度で続く。頭頸部領域の結核は臨床的診断が困難で、しばしば悪性腫瘍と混同される。頭頸部の結核患者の40-70%に活動性あるいは治癒型の肺結核所見がある。抗結核剤が奏功し約1-2ヶ月で回復する。
喉頭結核は喉頭に発生する肉芽腫性疾患のうち最多である。発生機序は感染した唾液の貯留や血行性播種とされる。以前は20-40歳の進行した肺結核患者に多くみられたが、現在は肺結核のない中高年者にも発症している。披裂間部や披裂、披裂喉頭蓋ヒダ、声帯、喉頭蓋がおかされることが多い。時に下咽頭にも感染は及ぶ。症状は嗄声や咳、嚥下時痛である。代表的な画像所見はびまん性・両側性の腫脹・粘膜下浮腫で、時に限局性腫瘤形成、潰瘍、壊死所見を呈する。喉頭の構造の破壊や軟骨の硬化はないが、不適切な治療が行われると喉頭狭窄や輪状披裂間の固定がおこる場合がある。鑑別診断には喉頭癌、 NK/T細胞リンパ腫、 Wegener肉芽腫、サルコイドーシス、梅毒、真菌感染、非特異的慢性炎症などがあがる。
頸部リンパ節結核は、頭頸部の結核の中で最多であり、また、頸部リンパ節症の約5%を占める。両側性で、後頸部や内深頸で、上頸部より下頸部に多く分布する。疼痛はない。CTやMRIでは初期に均一な吸収値・信号強度・造影効果を示し壊死は無いか少ない。その後に壊死が出現し、CTで中心部の低吸収とリング状造影効果を示し、MRでは中心部はT1低信号・T2著明高信号で、辺縁の造影される部分はT1中間信号・T2低信号を示す。中心部は乾酪壊死または液状壊死、辺縁の造影される部分は炎症性血流の増多や血管透過性の増加した肉芽に相当する。治療により石灰化が出現しCTで良好に描出される。MRIでは均一な低信号で造影効果のない結節構造を示す。MRIは活動性と治療効果の判断に有用かもしれないが、石灰化が分からないのが欠点となる。